僕の知らない鎌倉

私は幼い頃から長いこと鎌倉という土地に陰鬱な印象を抱いていました。
　生まれてからの実家での数年と、家庭の事情により転居後の学生時代の休みのほとんどを祖父母の家で過ごしていたところ。記憶の中の重い空気は当時の心情の反映です。
　すっかり縁もなくなっていたその地に数年前のある日、私は何かに誘われるように足を運びました。期待するものはなかったものの、習慣的にカメラを片手に。
　するとそこに長年抱いてきた重苦しい印象はなく、特有の風情や自然が私の心に優しく呼び掛けてくるのを感じました。以降その魅力に誘われて何度も訪れるうちに、心の影に覆われていた、少年時代の美しく懐かしい記憶が徐々に輝きを取り戻し始めたのです。
　私はひたすらに歩き回りながらのスナップ的な手法で撮影を重ねました。風景と共に写り込んでいるであろう私の想いが、どなたかの共感を誘ったり、心を震わせたりすることができたらこの上ない喜びです。
　写っているのは子供の頃の私には見えていなかった「僕の知らない鎌倉」です。そしてそこは今「私が愛してやまない鎌倉」です。