谷敷は、江戸時代にルーツを持ち、寺社建築の端材を人形に用いることで生まれた木目込みという日本固有のテキスタイル技術を再解釈し、使用する素材を古着や廃材に絞り、元々の持ち主に由来する身体性、時間、生の感覚、そして素材となる古着が元来そなえていたブランドコンセプトを汲み取り、絵画という形態に置換しながら語り継ぎ、それと同時に祈りや願いを込めるという木目込みや伝統工芸に特有の文化や価値を現代へリプレイスしています。
対する川原は、22歳の頃より最後の蛭谷和紙職人のもとで研鑽をつみ、現在は担い手が少なくなった材料そのものから和紙をつくりだすという実直なスタイルで和紙制作を行っています。「残すだけではなく、先に進めること、進化と向き合うこと」と語る川原の生み出す和紙は、技術や伝統にただ組みするのはなく、現代的な視座を交えながら新たに再解釈し、和紙という世界が持っている可能性を引き出していく姿勢が伺えます。
今回はそうした伝統や歴史を引き継ぎながらも革新性を失わずに自由に振る舞うこと、素材/事柄から新しい価値を引き出していく姿勢を、展覧会という形態によって体感する機会を目指します。また二人が用いている古着と紙はごくありふれた、日常的なマテリアル。そして会場となるスペースも住宅に近い、日常的な世界観。どちらも生活圏内にあるものですが、谷敷と川原はそこから特異で独特な作品を、そしてそれらをインストールした会場もまた同様の気配を装います。日常にアートをダウンロードすることで生まれる感性が華やぐ体験を、ぜひ会場でお楽しみください。
川原 隆邦 Takakuni Kawahara
和紙職人
1981年生まれ。富山県朝日町に伝わる伝統工芸、蛭谷和紙(びるだんわし)最後の継承者
故・米丘寅吉に師事、唯一の直系継承者。
蛭谷和紙(びるだんわし)とは
約400年前に滋賀県東近江市の蛭谷から富山県朝日町に移住した人々が伝えた伝統技術。
原料の楮(こうぞ)を育てる山づくりから自ら行う。川原さんが唯一の継承者で、
現在は富山県立山町にて制作している。
近年では東京虎ノ門グローバルスクエアエントランス作品や、ルーブル宮パリ装飾芸術美術館への作品展示など、日本のみならず世界から注目されている。
谷敷 謙 Ken Yashiki
現代美術家
1983年生まれ。杉野服飾大学卒業後、アパレルメーカーを経て美術家へ。
2007年在学中に家にあった使われていないタオルで木目込み作品を作り、
JFW JAPAN CREATION TEXTILE CONTESTで新人賞を受賞し本格始動へ。
2019 PARIS ARTELYSEESへ出品、 2021年UNIQLO TOKYO、新宿伊勢丹、
京都ワコールスタディホールで展示など国内外、幅広く活動を行う。
「木目込み」と呼ばれる人形に使われる伝統的な技法を使用した作品を発表している。