内なる印象

写真はものを伝えます。それが何か、いつどこで撮ったのか、そのときどんな気持ちだったのか。
しかし、伝えないことも可能です。何を撮ったのか見ただけではわからないし、古いものだとどこで撮ったのか忘れてしまうこともあります。そうして写真から情報を削ぎ落としていくと、リズムや調和、バランス感覚や美意識、言葉にするならそんなものだけが残ります。情報のような正確さで誰かに伝えることのできない、曖昧で密やかなものです。
そうした「言葉以前のもの」は誰しもが奥底に秘めているもので、言葉であれ、振る舞いであれ、作品であれ、あらゆる表現の源泉はそこにあります。人間を人間たらしめる、神秘的で豊かな領域です。
意味や情報は社会生活において大切なものに違いありませんが、その反面、意識を縛り、内面に広がる神聖な領域から自己を遠ざけてしまう怖さを持っています。

すべて捨て去って、ただ子供のようにものを見て、素直に形にする。そこには伝えるべき意味も思いもありませんから、是非わかろうとなさらず気楽に味わっていただければ幸いです。